ハンブルネスのひとりごと

ノルウェー在住のシステムズ・カウンセラーのブログです

額関節症(TMD) ノルウェー事情アップデート(2021・4)

みなさまこんにちは。久しぶりのブログ更新です。前回ブログでは私のこの気ままひとりごとブログの種類・カテゴリーをまとめてみたのですが、今日は本当に久しぶりにアップデートする「治療体験ブログ」、顎関節症がテーマです。

振り返ってみると、前回このテーマのアップデートは5月でした。

額関節症(TMD) ノルウェー事情アップデート(2021・3) - ハンブルネスのひとりごと

あれからざっと5か月…。どんな変化があったのか、シェアさせていただきたいと思います。海外暮らしならではの悩みや工夫など 取り上げていますので 興味がある方はお読みいただければ嬉しいです。

 

「日本で思いっきり検査していただこう…」と期待が膨らみましたが

これは、先にアップしましたブログで私自身が言っていたこと。8・9月をまたいで5週間の里帰りが決まっていました。「日本に行けばなんとかなる!」と、思っていたのですね。

結論から先にお伝えすると、東京都内にある大学病院二軒で見ていただけたのですが、顎関節が動いてオープンバイト(開咬)になってしまった原因はどちらも、「不明」(ここで、ガーン…となったのは言うまでもありません…)。顎関節や後頭部のレントゲンを撮っても 骨の異常は全く見つからず。これは、1月に撮ったCBCTの解析結果とも一致しています。一軒目の大きな大学病院には「顎関節症科」というのもあって、おそらく日本国内から患者さんが来るところで、先生方も経験豊富なはずです。担当していただいた先生曰く、「たまに骨に異常がなくて顎関節が動いてしまう患者さんがいるんですよね。」とのこと。予想に反して、こちらでは顎関節のみを動かす治療はしておらず、補綴系と矯正系の治療*1を合わせてやることで開咬を閉じる方向にもっていくらしい。ここで二軒目の病院に行くことを決めたのは、こちらの病院の先生方が出されたある論文にスプリント*2の顎間牽引による開咬治療があったこと。この論文のコピーを持ってきていたので、こちらについて私の症例に使えるかどうかのみを聞いてみようと思ったのです。

 

予想外の展開に

こちらの大学病院は初めから受診の予定はなかったのですが、なんと予約なしで診ていただけるというシステムでした。そして、なんとラッキーなことでしょう。丁度論文を書かれていたO先生が私が行ける日の初診外来にいらしたのです!

問診が終わった時点で 私がこちらに来た理由を告げ、持参した論文のコピーをお見せしました。すると、「これは適用じゃないかな。この治療、やってみます?」とおっしゃってくださったのです。ただし、この治療は時間もかかり、顎が動き始めるのは半年・一年後ということ。それから、動く保証もできない…とのこと。とりあえず、レントゲンも確認して、骨の異常がないことを確認。さっそくスプリントを作っていただくために歯の型どり。この時点で信じられない展開に、自分でもボーっとなっておりました。これは、果たして神様からのお導きなのか?

10日後の9月初めにスプリント装着のため再来院となりましたが、ノルウェーに戻る日程にも間に合うのでこの日まで本当にワクワク・ドキドキでした。何せ、開咬を自覚してからもう1年近く経っていて、その間治療までこぎつけなかったのですからね。

 

患者オンブズマンからのメール

ちょっと前後しますが、7月に久しぶりにオスロ・ヴィーケンの患者オンブズマン*3さんからメールをいただいていました。そのメールによると、Nye Metoder(ニーエ・メトーデル)という機関について最近情報を仕入れたらしく、それによると「誰でも」新しい治療などのメソッドをこの機関に提案・承認を得ることで、大学病院など公医療機関で新しい治療方法を取り入れてもらうことができる…、というもの。オンブズマンさんは私にこれを試したらどうか、と言ってくださったのでした。

自分ではすごく興味があるものの、新しい治療方法を提案するにはどうしても英語の文献が必要になります。これまでも先の大学病院の論文や、その他 少なくとも二つの大学の開咬の保存的治療の論文を読んで、それをこちらの大学病院とか歯科専門医の先生方にもお見せしてきたのですが。なにせ、英語部分が究極に少なくて 写真のみとか数行の概要のみでは 苦しいものがあります。

ダメ元スピリットでなんでも試したい私なので、先のO先生と、たまたま上記論文でメルアドを見つけたY先生という方に英語の文献についてお尋ねしてみました。O先生はご存じないとの回答。Y先生の方はお忙しい中、なんと同じ日にご回答をいただきました。先生曰く、こちらの大学でも国際的な歯学学術誌の方に論文を将来的に出されるとのことでしたが、ある他の論文をご紹介いただきました。それは、イスラエルにおられるN先生とP先生という方々のもの。

 

ノルウェーに戻ってから

さて、作っていただいたスプリントを無事に受け取り、9月初旬よりこの治療が始まりました。寝ている間のみの装着ですが、最初は口を閉じたまま上下にゴムをかけて固定することにとっても不快感を覚え、早々とくじけそうにもなったのですが、幸い不快感を覚えながらもちゃんと7-8時間は毎日眠れていたので、ありがたかったです。そう、私って、わりと神経質なところもあるけど寝るのは得意かもしれません…。

戻るとすぐに1年以上前に地元歯科医に紹介状を書いてもらっていたオスロ大学歯学部専門クリニックから10月初旬の予約が入りました。本当は去年の夏以前に紹介状は歯科医によって(レントゲンなどと一緒に)送られていたのですが、コロナ禍のバタバタで紹介状は紛失。10月に再度紹介状もろもろを送りなおしていただいて、今年10月の予約です。これって、みなさま、特にむちゃくちゃ腹を立てるほどレアな状況ではなく、日本のようにいつでもすぐ、どの専門医でも選んでいける状況がラッキーなんですよ…。

以前にもご紹介したこちらのクリニックはオスロ大学歯学部の専門歯科医を育成する教育機関としてのクリニックです。つまり、専門医コースに通われている全員はもともと普通歯科医で、スキルなどを取得するために一般の患者さんを受け入れているんです。私が当たったのは女医。初診は2時間ほどかけてこれまでのいきさつや、O先生の病院から頂いてきた自分の歯型、過去のかみ合わせの写真などを見せてじっくりお話しました。紹介先は補綴科*4だったのですが、他の専門治療科との連携もあるとのこと。とりあえず、オスロ大学病院での診断と、その他のクリニック・日本の大学病院での診断が異なるため、もっと詳しく検査して原因を突き止めてくださることになりました。ちなみに、以前ブログでもご紹介したとおり、歯科系機関での検査・治療は全額負担となっています。顎なのに…やれやれ。

 

イスラエルの論文はすごかった

日本語で書かれた論文は割と無料で見られたものが多いかな、という印象でしたが、やはり国際的な論文は有料ばかり。35ドルを請求されるのが普通です。ただ、先のクリニックにあった大学図書館に後日問い合わせてみると、大学関係者以外でもプリントアウトして無料でいただけるとのこと。*5たくさんの論文をプリントする場合はこちらもプリント代はかかったのですが…。論文はちなみに、The Journal of Oral and Maxillofacial Surgeryという学術書の2017年版にありました。

さて、私の英語のスキルは昔取った杵柄の「英検準1級」というのはありますが、それも30年くらい前。こんな学術書をちゃんと理解しながら読むのは至難の業…。でも、要所要所は一語一句辞書を引いて読んでいたのでなんとか理解できました。こちらの治療の対象は「Loss of vertical height」なる顎関節の高さが損なわれる症状のある 様々な疾患や骨折を持つ患者さん方。そして、すごいのが理学療法士さんとの連携で、なんと3-4週間の短い期間でオープンバイトが閉じるというのです!顎の牽引はぶっといブラケット、またはErichs Archといわれる顎関節手術後のあごの固定につかわれる針金。スプリントはピヴォットスプリントなる、奥歯のところのみ高くなったものを使用。見るからに痛そうな治療ですが、こんな短期間で、しかも矯正にありがちなぶり返しもないという…。論文ではローリスクかつ保存的治療とうたっています。

たしかに、私の症状も奥歯部分で上あごへの高さが開咬になる前にくらべて嫌に低くなっているし、そのおかげでオープンバイトになっているわけで。*6いや、しっかし、いくらなんでも3-4週間て… 信じられない! ああ、この治療がノルウェーでできたらなあ… そう、実はNye Metoderに先日この治療の提案書を出しちゃいました。

論文をお書きになった先生の名前から、この方が実はESTMJSというヨーロッパの顎関節外科医の団体のメンバーであることが判明。すごい優秀な先生方の集まりのようですが、団体の主目的は顎関節症で苦しむ患者さんをヘルプすること…なんてすばらしいんでしょうか。ここでもダメ元でこの団体に一人の患者として助言をいただこうとメールを出したのが先週末。今週になってから、なんと団体の方からの返事と、加えてこのN先生ご自身からも返事が来ました!うわー、むちゃくちゃ嬉しいです。N先生、レントゲン写真を送ってもらえたら、助言できますよ、とのこと。なんてご親切な。最新のレントゲンは日本で8月に撮ったもので、それが入ったCDはオスロ大クリニックに預けてあるので 来週早々取りに行きたいと思います。

 

まとめ

5か月分を一気にアップデートしましたので、かなりの長文になり失礼しています。さて、これからですが しばらくは唯一の治療となっているO先生のスプリント治療を続けてみながら*7イスラエルの先生から(あれば)より近くの治療期間をご紹介していただこうかと考えています。また、Nye Metoderでの結果がどうなるかも 期待はしないけど、待っていたいと思います。トライしたことに意味があるんですからね。ノルウェーでこの治療を大学病院でできることになると、いちばんリーズナブルです。というのも、公の医療機関はフリーカードの対象になっているため、自己負担額3000クローネ弱を払えばあとは無料。でも、おそらくそうならないでしょう。

歯科系となると全額負担なので、今は冗談の域ですがノルウェーで大金払うくらいならイスラエルに行っちゃえー、ってなことも言いだした私。そうですよね、コロナが落ち着いた暁にはあちらが受け入れてくれて私が治療代を払える限り不可能ではないかもしれませんよね。

そんなこんなで、どうなるんでしょうか。この治療ブログをお読んでくださっているみなさま、必ずこの先起こったことも逐次ご報告いたしますので、しばらくお待ちくださいませ。

今日もお読みくださり、ありがとうございました!

*1:補綴系治療は歯を削ったり、かぶせものや詰め物などで高さを合わせる治療。また、矯正はみなさまご存じの通り歯を動かしていく治療。矯正治療では上下ブラケットにゴムをかける顎の牽引もあるのですが、奥歯を沈ませるという治療もされるため、「保存的治療」ではなくなると理解しています。保存的治療とは、治療以前の状態に戻すことができる治療のことです。歯を削ったりすると、元には戻せませんもんね。

*2:マウスピースとも呼ばれていますが、医療関係ではスプリント名称が多いと感じます。

*3:オンブズマン制度について、総務省のHPではこうあります: オンブズマン制度は、19世紀初めにスウェーデンにおいて初めて設置された制度で、高い識見と権威を備えた第三者オンブズマン)が、国民の行政に対する苦情を受け付け、中立的な立場からその原因を究明し、是正措置を勧告することにより、簡易迅速に問題を解決するものです。第2次世界大戦後、ヨーロッパを始め世界各国に設立され、行政苦情救済の仕組みとして、広く普及しています。

*4:顎関節症、顎関節の歯科系の治療は大体スプリントで筋肉の緊張緩和や詰め物の高さによるかみ合わせを診断される関係で補綴科なのだと理解しています。

*5:ちなみに、普通の市民図書館でもプリント代はかかるかもしれませんが、論文入手を手伝ってくれます。

*6:歯列が原因のオープンバイトだと、歯型を作って上下を合わせた時にやはりオープンバイトになるのですが、顎関節のオープンバイトでは歯型模型上ではちゃんと元のように上下がきちんとかみ合っている…ことで種類の違うオープンバイトを見ることができます。

*7:スプリントの調整が数か月に一度必要とのことで、とりあえず日本に行った時に受診の予定。