お久しぶりのブログ更新です。みなさまお変わりないでしょうか?
今日は私が約2年前から現在の職場でやらせてもらってます、「労働環境オンブズマン」について触れてみたいと思います。他の北欧・ヨーロッパの国は分からないのですが、とてもノルウェーらしい制度です。最後までお付き合いいただけたら幸いです。
VERNEOMBUD (ヴァーネオムブード)、労働環境オンブズマンとはなんぞや?
さて、ノルウェーは福祉国家で有名なのですが、それを支える「労働第一主義」の政策が戦後以降ずっと取られてきました。おのずと労働者の権利が法的にも整えられ、日本と比べると法律は紙上の話ではなく、さまざまな形で法を守るべく対策がなされていると思います。
労働者のための法律で一番最初に出てくるのは、「労働環境法」(Arbeidsmiljøloven)で、現在の法律は1977年に制定されたものの2005年改正版です。日本の労働法と同様、この中には労働者の権利を守る様々な規定が定められています。例えば労働環境については、身体的のみならずメンタル面でも最低限の基準を満たすものが義務化されています。その法律中にこの労働環境オンブズマン制度についてのチャプターがあるのです。
例えば、オンブズマンの役割。オンブズマンとは、監視役という意味で、要するに事業主が法に元づいて職場環境を整えているか、を監視します。また、誰がオンブズマンになれるか…など。オンブズマンになるには、該当の職場についての知識や経験、また皆からも信頼されている必要があります。よく、労働組合の職場代表との違いが判らないという意見があり、ごっちゃになっている人も少なくありません。組合は、組合員についての賃金や労働条件などを交渉したりする人で、組合に加入していない人については役割は無です。一方オンブズマンは雇用者全員の代表となるので、責任重大です…。
私が労働環境オンブズマンになったわけ
直接のきっかけは、前職の難民キャンプにあります。それまで10年ほどノルウェーの行政で働いてきた私ですが、さまざまな理由で難民キャンプに転職。クライアントさんたちが居住しているキャンプなので、やはりさまざまな事件発生。不服のあるクライアントさんに待ち伏せされることがあったりと、職場の安全性をどうやって確保していけるかを考えた時、自分がオンブズマンになって働きかける必要性を感じました。実際に何をするかというと、このころは職員数も多くなかったので同僚と話しあって、問題点や改善点などを所長に伝えるという形だったと思います。
現在の職場では、前任者が長い間オンブズマンだったのですが、彼女の定年退職をきっかけに後継人として私を指名していただけました。まあ、普段から職場の安全性や職員の安全に関する同僚たちの温度差などについて色々話していたので…適任と思っていただいたのかもです。丁度 転職してから数年が経ち、仕事内容の経験・知識はあったので、タイミング的には良かったのかもしれません。
オンブズマンは先述の労働環境法によると、職員が5人以上の事業所で義務付けられています。また、事業主(所長)は、オンブズマンになった人の教育についても責任があり、私もコースに送られました。(ちなみに、オンブズマン教育は40時間で、2日間の全日コースにオンラインのコースからなっています。)一般的に事業所の多くが産業保健サービスと提携しているので、私が行ったオンブズマン育成コースもそういった企業が運営しているものでした。このコースで他の事業所のオンブズマンたちからも話を色々聞けたのですが、思った以上にうちの職場は労働環境ワークが整ってないな…というのが感想でした。ここで、「あるある」ですが、環境を整えるのもオンブズマンの仕事だと思っている人(特にチームリーダーなど)がすごく多く、何度も何度もいろんな同僚などに説明する必要があり…。
オンブズマンの仕事
法ではオンブズマンの働きをする十分な時間は、事業主によって確保されなければならない、とあります。自分の普段の仕事の合間を縫ってオンブズマン活動に充てなければなりません。主な仕事は、所長などとの定例ミーティングや労働環境ワークのプランニングや実際の実務など。去年11月には数年ぶりにアンケートを実施。その後、各職員と面談でさまざまな体験を調査しました。この中で出てきたのが、やはり危険防止についての知識やスキルが足りない…ということ。数は多くはないものの、はやり薬物使用や精神不安定のクライアントさんに関わるため、暴力行為から身を守る・未然に防ぐ知識は必須です。春には講師を呼んでコースを実施しました。でも、一回ぽっきりではやはり不足なので、定期的にコースは実施しなければならないと思います。
その他、最近話題になったのは一日の労働時間の超過。うちの職員は皆日勤なのですが、やはりクライアントさんの都合で夕方―夜と定時外の仕事があります。事務職と施設職の中間のような感じです。(私などは、ハイブリットと呼んでいますが…)私もうっかりしていたのですが、オンブズマンのリーダーから指摘されたのが、一日の労働時間の上限。これを超えて働くことは違法だったのです!さっそくそれをうちの所長はじめ同僚に伝えたのですが、やっぱり皆が「えー、知らなかった」というリアクションでした。(これを職員に教育して超過しないようルーティンを組むのも実は所長の責任…)
ソーシャルワーカーって、困っている方、問題を抱える方に寄り添って働く仕事なので、自分の心身の健康が良くないとしっかり支援できません。私も過去に長期で求職という事態に陥ったことが数回。ソーシャルワーカー辞めようかな、と思ったこともあります。そんなわけで、私自身は自分の心身の健康管理も重要な仕事の一部だと思っているので、長時間労働は節度をもってコントロールしないと…ですよね。実際にすごく疲弊して大変だ、という同僚に話を聞くと もっと簡素化して短時間で済ませられることも多々あったりします。
最近のジレンマ
現在の所長が来てから、さまざまなプロジェクトチームなどが立ち上げられています。プロジェクトで働く職員は期限付きです。それに、もと大学の実習生だった卒業したての子たちも複数人、半年契約などで働いています。つまり、正規の職員ではない同僚が数的には多く、みんな考えることは一緒で、どうにか契約を伸ばしたり 正規職員につながるように、かなり頑張っています。もちろん頑張ることは良い事なのですが、労働時間を考えずに長時間労働を続けたりするのが 当たり前になってきている傾向が見られます。それに、クライアント・ファーストという感じの風潮があり、身を粉にして働かないのはソーシャルワーカーとして失格…の様な空気さえ感じます。昔はこうじゃなかったのに…、と思わずため息です。去年卒業したての若い子たちは、おのずと社会経験も短いし。かといって、ただのオンブズマンの私があれこれ言っても、聞く耳もたないのは不思議ではないですよね…。(本来は所長またはチームリーダーの仕事)オンブズマンって、いろいろな間違いや法違反を指摘しなければならないし、あんまり感謝されない役割かもしれません。もちろん、オンブズマンを引き受けたからと言って、給与アップもなし。とりあえず、もう少し私なりに頑張ってみます。
さて、今回は労働環境オンブズマン制度について紹介しました。日本のチャットサービスでボランティアをしていた頃も、労働環境で悩んでおられる方々は多かったように思います。ノルウェーでも、このような制度はありますが、やはりいじめ問題もあれば えこひいき問題もあるし…。私のこれまでの職場を見ても、労働環境法を知らないリーダーも多い印象です。ある意味、国は違っても共通する部分はありますね。ただ、オンブズマンの権限として「労働環境がひどい場合は職場を閉鎖することができる」というのも挙げておきます。よっぽど究極じゃないと、もちろんこの権限は行使できませんが…。
今日も最後までお読みくださり、ありがとうございました!