ハンブルネスのひとりごと

ノルウェー在住のシステムズ・カウンセラーのブログです

PREP(プレップ)試してみませんか? その5 (4つの危険信号・相手を避ける行為)

みなさま、こんばんは。お変わりありませんか?9月もあっという間に半月が過ぎました。私たち夫婦は今、10月の日本行きに向けて準備に追われています。こちらの10月と言えば、急に寒くなったり初雪も降ったり。鉢植えやらガーデン家具の片付け、今食べごろになってきた庭のリンゴを収穫したり…と、出発までの「To do」リストはまだまだ続きます。

 

今日のブログも、「予防と関係強化プログラム、PREP」から。これまで「4つの危険信号」をご紹介してきましたが、いよいよ最後の危険信号「相手を避ける行為」です。ノルウェー語では、これは一つの単語で「Tilbaketrekking」と言いますが、日本語でどう表現するかちょっと迷いました。Tilbaketrekking は、直訳すると「後ろに下がる、後退する」です。でも、PREPのコンテクストでは、コミュニケーションを避けて 違う部屋に引っ込んだり、また物理的に一緒の空間に居ても 新聞やスマホなどに隠れて コミュニケーションに参加しない、などのニュアンスになります。

 

避けることがパターン化に…

PREPで言う危険信号とは、相手を避けることがパターン化している状態を指します。例えば、長い一日の後、すごく疲れていて「もう、とにかく静かな部屋で横になりたい」とか、一人になりたい時って誰にでもありますよね。そうではなく、パターン化した避ける行動とは、日常的にパートナーと話すのを避ける・話ができないように別の部屋に行く、またはパートナーの話は上の空になって聞いている事を指します。この他、話を早く終わらせようと、黙りこくっていたり 同意しているふりをすることも含まれます。

 

避けられた方が取る行動

もしも、自分のパートナーが自分を避けていて、大切な話もできない状態だったら?たいがいの方は、パートナーを追っていく行動を取ることと思います。「ねえ、ねえ、なんでそっち行っちゃうの?聞いてよ。」と、相手に迫っていくのではないでしょうか。ただ、ここでよく起こってしまう現象は、迫れば迫るほど、相手がますます避ける行動に移る…というものです。人と人とのコミュニケーションって本当に不思議だと思うのですが、パートナーと話がしたいと思って出る行動が全く逆効果になってしまい、もともとコミュニケーションを避けたいパートナーは、ますます自己防御として避ける行動をとりたくなってしまうのです。

こうなると、どうしてこうなったかも わからなくなります。パートナーが避けるから、迫っていってしまうのか。それとも、パートナーが迫られていると感じて避ける行為を取ってしまったのか。

今日のテーマの「相手を避ける行為」という呼び名自体、実は避けられている側からの描写です。避ける行為をする方からすると、もしかすると、相手を避ける必要性を感じるほど、相手を怖いと感じているかもしれません。つまり、避ける行為をとる方にも正当な理由がある、避けられる側にも原因があったのかもしれません。どちらが悪いと一概にいうのも難しいかもしれませんね。

別パターンとして、カップルの二人ともコミュニケーションを避けている場合もあると言ます。その場合もコミュニケーションが無い、ということからカップルの関係に不満がつのっていく可能性があります。

 

PREPの提案

カップルの関係を上手く行かせるには、二人で問題に取り組む必要があるのは公然の事実です。この危険信号についても同じで、コミュニケーションを改善するには、二人で協力しあうことが不可欠です。自分たちのコミュニケーションは一方が避ける方で、もう一方が追いかける方だとわかったなら、自分はどちらの役を担っているかを見極め、それから、お互いがどうして避ける方、迫る方の行動に出るか(心理的カニズム)を理解しあうことも大切です。特に、迫る方には、迫ることをまず辞める覚悟が要るかもしれません。

難しい話を避けてしまう方には過去の家族のコミュニケーションパターンの経験もあるやもしれません。特にケンカをしたり、意見が一致しない場合、感情に訴える家族で育った方なら 自分の感情を大切な人にぶつけることは当たり前だけれども、もしそうでない家族環境で育った方なら、こういった言動にどう対処したら良いかわからないと想像できます。人は未知のものには恐怖を感じるものですから、パートナーに向き合うことよりも、退避する方を選んでしまうかもしれません。

また、恐怖は強い感情ですから、ここでは恐怖や不安を感じる方に、安心感を持ってもらうよう、感情に訴えたり、ケンカにならないよう話し合いを持つ努力も必要かもしれません。

 

システムズアプローチ的問題の見方

どちらかが相手を避ける行動をとり、もう一方が追いかける行動をとる… そして、これを改善しようと同じ言動を繰り返せば繰り返すほど、状況は悪化してしまう。実はこのコミュニケーションのパターンは、家族療法の教科書でもおなじみの例です。システムズアプローチでは、「問題」は個々の個人にあるという一般的な考えから離れ、人と人との関係やことの背景(コンテクスト)が複雑に絡まった状態で発生していると考えられています*1。ここでの「避ける行動」と「追いかける行動」が本人たちにとっては、相手の問題行動に対処しているのですが、これが実際は問題の現状維持を助けています。

PREPでもシステムズアプローチの要素が要所要所で見られるものの、今日の例についての対処法の提案はシステムズアプローチとは少し異なっています。追いかける方の「追いかけ行動」を止める…というところまでは同じですが、システムズアプローチでは、もっと大胆に「追いかける行動と逆の行動」または「パートナーがびっくりするような全く新しい行動」を取ることを提案します。そうすることで、避ける方の「避けたくなるメカニズム」を全く無効にしてしまうのが狙いです。例えば、「君はスマホを好きなだけ一日中見てて、話しをしない日を設けようか」という提案。そんな風に言われ、実際に実行に移せたなら、いくら何でもあちらから声をかけたくなるかも知れません。システムズアプローチ(特にショートセラピーの解決法の提案)は、パラドクシカル・インターヴェンション(逆説的介入)と言われ、少し変わっていますし、実際に効果が出るほど忠実に実行できるかも賛否両論かも知れません。

 

今日のまとめ

やっと最後の危険信号まで紹介することができ、ほっとしています。でも、今日のコミュニケーションパターンが一番難しいかも知れません。「退避」という行動自体、まわりが何もなすすべが無くなるくらい、かなり強力な威力を発揮します。できるなら、そんな行動を一方が取らなくて済むように日ごろのコミュニケーションを上手く取れたら一番良いのですが…。危険信号についての締めくくりの章では、二人の努力を難しくする状況として、一方(または両方の)ストレス・うつ状態・依存症を挙げています。つまり、精神的に健康を害している場合、なかなかプラスに働くように頑張ることも難しいということですね。また、健康を害していない方が理解を保ち続けるのも長期的にはかなり試練になることも多いようです。

 

PREPは15のテーマで構成されていますが、次に取り上げたいと思っているのは もっと建設的なテーマ「二人が一緒になった時」をご紹介したいと思います。ここでは、二人が出会い、どのような経緯で結ばれたか…という、ロマンチックな内容です。

 

今日もここまでお読みくださり、ありがとうございました!

 

*1:家族療法が考え出された当時に名付けられた、システムセオリーの「システム」はこの考えから発祥しています。後に生まれた家族療法では、問題の定義は少しずつ変化していき、今では様々な問題に対する考え方やワークモデルがあります。場所の関係で今回は省略します。